怒られる男の日記

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【読書感想】薔薇を拒む/近藤史恵

近藤史恵さんの「薔薇を拒む」を読んだ。ちょっと耽美な感じがありつつも、青春小説として、ミステリとしてもまあまあ面白かった。

薔薇を拒む (講談社文庫)

薔薇を拒む (講談社文庫)

 

17歳の鈴原博人は、訳あって通っていた高校を辞め、とある資産家の別宅にやってくる。ここで3年間働きながら勉強すれば、その後大学に行く費用を出してくれるというのだ。そこで待っていたのは、資産家の妻と、その娘・小夜。そして二人の使用人。最後に、もう一人同じようにして招かれた少年・薫だった。奇妙な組み合わせの共同生活は意外にも穏やかに始まり、博人は三年間何も起きずにこのまま屋敷での生活が続くことを祈るようになるが、その祈りもむなしく、殺人事件が起こる…。

 

中盤まではひたすら、屋敷での生活の様子が描写される。庭仕事やペットの世話といった軽作業をこなして、その後は読書したり勉強したりしてすごすというある意味夢のような生活だ。とはいうものの、屋敷に来たところで携帯を取り上げられたり、後に登場する刑事が「火薬庫」と称する、美少年2人に同年代の美少女、まだ若い妻と同じく若い二人の使用人といういつ間違いが起きても仕方がない人間関係など、常に緊張感が漂っている。

 

そしてついに殺人事件が発生し、いよいよ物語が動く…と思いきや、動かず…っ!博人の過去が明らかになったり、小夜との間に三角関係的な感じが生まれたりとかはあるのだが、肝心の殺人事件については、刑事がうろうろして捜査している、程度の感じで進展しているようすがない…。どんどん残りのページ数は少なくなる…。大丈夫なのか、これ?と心配になってきたころ、ついに謎が動き出す! この時、残りページ数30ページ。ここからどう畳むのか?残りのページ数から言って、さらっとした終わり方になるだろうと思いきや、ここからが怒涛の展開だ。そこまでするのか、と驚きつつも、あまりの勢いについついに一気に読み切ってしまった。

 

特に最後の最後で明かされた真実に関しては、少々重たいというか、この作品のシメとしてはやりすぎのような気もしないではない。コース料理頼んだらあっさりした品物ばかりでがっかりしていたら、最後のデザートにラーメンがまるまる出てきたようなインパクトだった。まあともかく面白かったのは確か。声を大にして勧めるほどツボには入らなかったけど、普通に面白いと思う。

 

いい意味で「雰囲気小説」。人里離れた洋館、美少年と美少女、夫と離れて暮らす妻と若い使用人。そして起こる悲劇…そんな感じの作品が好きな方ならはまると思う。

 

 

 

 

【読書感想】美人薄命/深水黎一郎

本を読んでいて時々、期待していなかった本が予想外に面白くてびっくりするときがある。あんまり聞いたことのない作家さんだったり、タイトルに惹かれなかったり、表紙が地味だったり…。じゃあなんでそんな本買ったんだろうといわれるとそうなんだが、何かしら本が放つオーラがあってそれを察知していたのかもしれない。この「美人薄命」も、期待せずに読んだらものすごく面白かった。きっと表紙のおばあちゃんが只者ではないオーラを放っていたに違いない。

 

美人薄命 (双葉文庫)

美人薄命 (双葉文庫)

 

というか、この表紙を見て、面白そうだと感じる人はいるだろうか? まあいないだろう。自分も、深水黎一郎の名前を見てこの本を手にとり、表紙を見て「うわあ…つまんなさそうだなあ」と思った。だって、横向いてちんまり腰かけてるおばあちゃんだよ? マンガ的にデフォルメがきいてるわけでもなく、地味な絵柄、地味な色遣いで。内容的におばあちゃんの話なんだとしても、タイトル美人薄命ってうたってるんだから、若いころの顔ってことで清楚美人のイラストにしといたらまだ良かったんじゃないだろうか。作者も編集者も売る気ないのか?

 

と、なんで表紙の印象をつらつらと書き連ねたかというと、この思い込み、見た目のイメージにひきずられてしまうということが、この作品のトリックの根幹をなしているからだ。読者自身をも仕掛けの一部として取り込んでしまう手法は、深水さんのデビュー作にして代表作、「最後のトリック」でも使われたやり方だ。そういう意味で、自分はこの時点ですっかり作者の術中にはまっていたということになる。

 

某美男剣士と一文字違いの名を持つ大学生・磯田総司は、大学を進級しそこなうピンチに陥り、教授の指示で社会学のフィールドワークとしてボランティア活動を行うことになる。ボランティア求人を探すもののどれもつまらないかきつそうで、最終的に選んだのは、独居老人向けにお弁当を支給している団体が募集していた宅配ドライバーだった。

 

初日、言われたとおりにお弁当を配達する総司は、偏屈な老人、宗教に勧誘してくる老人などに散々な目にあい、うんざりしながら最後の一軒に寄ったところ、そこにはカエという名の老婆が住んでいた。若いころの事故で片目を失明したというカエ婆さんに押し負けて茶飲み話に付き合わされる総司は、押しが強くて冗談好きなこのお婆さんのことが妙に気になってしまう。それから配達の度、時には遊びにいって、しばしばカエ婆さんの家を訪れることになった総司だったが…。

 

と、半分くらいが総司とカエ婆さんの会話で成り立っている小説なのだが、このやりとりがとても面白い。調子よく冗談とも本気ともつかない突拍子もない言葉を放り込んでくるカエさんに突っ込みを入れる総司。まるで漫才みたいな会話は読んでいるだけで楽しくなってくる。大学生とおばあちゃんの会話を面白く書くなんてすごくないか? 深水さんって実はかなりできる作家さんなのでは?

 

会話のなかで、カエ婆さんの若いころの恋の話が出てくる。五十治という男性と愛し合う関係だったが、彼は戦争で帰らぬ人になってしまったのだという。これ自体微笑ましくて悲しくて、切ない良い話なのだが、終盤にある事件が起きて、総司はカエさんの真実を知ることになる。そこで一気に、今まで聞いてきたカエさんの人生の物語が、思っていたのとは全然別の意味を持っていたことを知る。人の人生そのものにトリックを仕掛け、一つの事実からそれをひっくり返して見せるさすがのテクニックだ。それも一度ではなく二度までも。読んでいて、嘘だろ?となんども思わせられた。

 

カエという一人の女性と出会ったことで、どこか投げやりな人生を送っていた大学生が成長し、自分を見つめなおすという青春物語にもなっている。全く世代の異なる二人の人生が、思いもかけぬきっかけでひと時交錯し、それぞれが変わっていく過程は感動的ですらあった。読み終わって、ミステリとしての仕掛けに感嘆するとともに、とても爽やかな気持ちになることができた。見た目は地味だが、素晴らしい作品なので、見かけたらぜひ読んでみて欲しい。

 

 

 

【読書感想】虚ろな十字架/東野圭吾

東野圭吾さんの「虚ろな十字架」を読んだ。 

虚ろな十字架 (光文社文庫)

虚ろな十字架 (光文社文庫)

 

 

東野さんと言えばミステリ界のキングオブキングス。作品はことごとく映画化、ドラマ化され、賞を取った作品も多い。世の中的にミステリが下火だった80年代ににはコツコツと正当派の謎解き作品を書き、80年代後半の新本格ブーム以降に奇抜な設定のミステリが流行すると、そんなの俺にも書けるよとばかりにトリッキーな傑作をガンガン出すという生き様も含めて、まさに生ける伝説と言える存在だ。

 

私自身、「容疑者Xの献身」「悪意」「片想い」「白夜行」「むかし僕が死んだ家」「パラレルワールドラブストーリー」「白馬山荘殺人事件」など大好きな作品も多い。しかし、最近はやや低調というか、人間ドラマに偏ってミステリ要素が薄く、またドラマ部分についても最後に号泣させて終わりというような投げっぱなし感のある作品が多いと思っていた。しかし、本作は久々に、全盛期東野作品を思わせる、ドラマとミステリのバランスが良くかつレベルの高い内容だった。

 

ペットの葬儀屋を経営する中原道正は、かつて娘を殺され、犯人が死刑を宣告されたのちに妻と離婚したという過去を持ち、終わることのない喪失感をかかえて生きている。ある日、元妻の小夜子が殺害され、犯人が逮捕されたとの知らせを聞く。驚いて久しぶりに元義両親と連絡を取ったところ、道正と別れてからの小夜子が、事件遺族の立場から死刑制度廃止論への反対を訴える本を執筆していたことを知る。道正が生前の小夜子の足跡を追ううち、単なる通り魔的な殺人と思われていた事件の陰に、意外な事実が浮かび上がってくる…。

 

本作は死刑制度をテーマとしているが、制度としての是非などの議論には踏み込んではいない。あくまでも遺族としての立場、犯人の家族としての立場など、立場が変われば全く見え方が異なってくるという人間心理の不思議さを演出するための材料として、殺人者と死刑制度を描いている。社会派作品を求める人には物足りないかもしれないが、エンタメを求める自分にとっては、ありがちな作者の主張などのノイズがないので身構えずに読めてとても良かった。

 

同時に、殺人という罪を様々な角度から描き、読者としては大いに考えさせられたのも確かだ。序盤、道正と小夜子夫妻が娘を殺された事件についての裁判のくだりがあるが、この場面では当然ながら犯人に対して殺しても飽き足らないというほどの憎しみしか感じなかった。しかし、その後の展開で、その価値観がぐるぐると揺らがされ、戸惑う自分がいた。最後にはその価値観の揺らぎにとどめを刺すような、意外かつ納得できる真実が明らかにされる結末も完璧。最後が唐突に終わってしまうことの多い東野作品にはめずらしく、「その後」まできちんと書かれていたのも個人的にはポイントが高かった。

ドラマとミステリがかみ合った、かつての傑作群に並べても遜色のない作品だと思う。久々にレジェンドの本気を見ることができて満足だ。

【読書感想】フライ・バイ・ワイヤ/石持浅海

嘘だろ? 驚いた。びっくりした。驚愕した。信じられない。こんなことがあるなんて。石持作品で涙する日が来るとは…。 

石持作品は、閉鎖環境で事件が起きて、何らかの理由で警察に頼らないで自分たちで事件を解決しようという流れになり、関係者がワイガヤして犯人を推理していくというパターンが多い。すごくロジカルで、提示される謎も魅力的で、とても完成度が高いのだが、ただ一つ、登場人物の考えや行動に全く共感できないという問題がある。それをリアルな人間の行動という感じで書いているので、失礼ながら、作者自身が少々ズレている人なんだろうと思っていた。なので、自分にとって石持作品は、感情が動かされることはなく、あくまでミステリとしてのアイデアやテクニック、ロジックの意外性を楽しむものという感覚だった。この作品を読むまでは。

 

前置きが長くなってしまったが、本作は近未来の高校を舞台にした青春SFミステリだ。とある高校の、工業系の技術者を目指す優秀な学生が集まるクラスに一人の転校生がやってくる。転校生の名は一ノ瀬梨香。ただし、その姿はロボットそのものだった。病気のために学校に通えない学生のため、遠隔操作可能な高性能ロボットを使って高校生活を送るという、新技術の実験場としてこのクラスが選ばれたのだ。最初は戸惑う生徒たちだったが、もともとロボット工学に親和性の高い学生が集まるクラスだったので、次第にロボット=梨香は一人の友人として溶け込んでいく。

 

そんなある日、事件が起きる。一人の女子生徒が頭部を殴られて殺されたのだ、その時、現場には後背部を血に染めたロボット=梨香の姿があった。梨香の扱いをめぐってクラスが動揺する中で、委員長であり梨香の世話役でもあった宮野隆也は、親しい友人たちとともに、事件の真相を推理しようとする。なぜ事件は起こったのか。梨香は、事件にかかわっているのか?

 

自分は、ロボットが転校してくるという設定からは暗殺教室の律を、病気の生徒が遠隔操作で登校するという設定からはある有名ライトノベルのキャラクターを連想したが、実はこの連想がかなり作品の核心に迫るものだった。

 

それはさておき、ロボット=梨香に対して、生徒たちが様々な反応をする。それが各生徒の性格を演出することにつながっている。結果、石持作品にありがちだった作中人物の不自然さを感じることがなく、素直に読むことができた。あるものはロボットの技術に関心を持ち、あるものは優秀さに脅威を覚え、あるものはクラスへの影響を懸念する。そんな中で、ロボット=梨香を一人の友人であり女子生徒として接する隆也には共感したし、その態度が結果として事件解決につながった結末には爽快感があった。

 

ミステリとしてはさすがの石持クオリティできれいにまとまっているし、何よりも、謎が解けたあとの一連の展開に、不安や悲しみ、喜び、絶望と希望が詰まっていて、これぞ青春小説という、感情を揺さぶられる幸せな読書体験ができた。今まで石持作品に抱いていた印象が180度変わるほどの感覚だった。ミステリでSFで青春小説な作品が好きな人には心からおすすめできる作品だ。

 

最後に。もしもこの作品を読む人がいたら、読み始める前に、まずは表紙のイラストをじっくりと見て欲しい。なんのへんてつもない高校生男女のワンシーンだけど、最後まで読んでその真の意味が分かった時、きっと温かい感情がじわりと湧き上がってくるはずだ。

【読書感想】グランドマンション/折原一

叙述トリックの名手、折原一さんの「グランドマンション」を読んだ。グランドマンションと名前は立派だが、その実はなかなかに築年数を得た賃貸マンションで起こる様々な事件を描いた短編集だ。作者の持ち味がいかんなく発揮されていてかなり面白かった。 

グランドマンション (光文社文庫)

グランドマンション (光文社文庫)

 

折原一さんといえば叙述トリック叙述トリックといえば折原一さん。この人の場合、本当にそれしか書かないので、読者のほうも最初から身構えてしまう。最初の何冊かは本当に面白く驚かされたが、さすがにこっちも次第に慣れてくるものだ。折原作品では、毎回のように語り手が頭を殴られて気を失うシーンがある(この本にもある)。大抵はそのタイミングで時間が飛んだり視点人物が入れ替わったり何かしらのトリックが仕掛けられている。なので最近は、折原作品で頭をポカリとやられる描写があると、「はい来たー!」とむしろ笑ってしまうようになっていた。

 

もう折原作品を純粋に楽しむことはできないのかなあ…と思っていたところだったが、この作品は久々に素直に面白く読めた。やはり短編集なので、こちらが身構えたりいろいろと考える間もなく勢いで押し切れるのが良いのかもしれない。やっているのはいつもの、時間の錯誤や場所の入れ替え、視点人物の切り替えなどお馴染みの技ばかりなのだが、短編ごとに次々と繰り出されると意外と騙されてしまった。

 

「音の正体」は、騒音に頭を悩ませる男の話だ。頭上から響く、子供が出す騒音に迷惑している男は、上階の部屋にクレームを入れる。すると、そのたびに響いていた赤ちゃんの泣き声や子供の騒ぐ音がピタリと止まってしまう。上階に住む母親が派手に遊び歩いているのを知った男は、自分のクレームが引き金になって、虐待死が起きてしまったのではないかと疑うのだが…。最後にすべてがひっくり返る一撃が見事な一編。

 

「304号室の女」では、グランドマンションの販売会社の女性と、入居者の男女の視点が交互に描かれる。販売会社の女性は、上司と親密になっていくが、あることがきっかけで上司に疑念を抱く。一方入居者カップルの女性は、夫の浮気相手が販売会社の女性ではないかと疑う。途中で明らかに不自然な描写があってひっかかっていたが、納得と同時に驚愕かつ脱力の結末が待っていた。

 

その他、どの短編も意外性とコミカルな軽さという作者の持ち味が出ていて、楽しく読むことができた。たまには社会派の重たい話もいいけど、ミステリはこういう気軽に読めて楽しめるのが一番だよなあ、としみじみ思った1冊だった。 

 

【読書感想】ifの悲劇/浦賀和弘

浦賀和弘さんの「ifの悲劇」を読んだ。相当にトリッキーな構成のミステリで、この手の小説を読みなれた読者でも大抵は騙されてしまうのではないか。「騙し」「驚き」とという一点においては、かなりレベルの高い作品だった。 

ifの悲劇 (角川文庫)

ifの悲劇 (角川文庫)

 

とかいいつつ、実はこの本を読むのは2回目だ。タイトルを見て、なんとなく見覚えあるなーと思いつつ買ってみて、プロローグを読み始めた瞬間思い出してしまった。しかし、肝心のトリックは全く記憶になく、読み終わった今も以前読んだ時のことは完全に忘れ去っており、新作として読むことができた。自分の記憶力の無さを喜ぶべきか嘆くべきか、微妙な感情が渦巻いている。

 

プロローグは、小説家の花田欽也が次回作の構想について編集者と交わしている会話から始まる。パラレルワールドをテーマにした小説で、些細な事柄をきっかけに枝分かれした世界を並行して描くようなものらしい。実はこの花田、最愛の妹を失ったばかりである。その死の原因は、妹の婚約者であった興津という男にあると確信した彼は、興津殺害を決意し、計画を練る。それは、自分が住む網走と興津が住む夕張の、300キロという距離を利用したアリバイトリックによるものだった。

 

そして次の章から、花田の作品構想そのままに、「犯行直後に目撃者を殺害した場合」と「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」という二つのストーリーが並行して進んでいく。前者は、首尾よく殺害を終えた後、帰宅の途中で人をひき殺してしまうというパターン。後に、ひいた相手もまた興津に害意を持つ人物だということが判明し、二重の殺害を隠蔽しつつ、二人目の犠牲者に一人目の殺人の罪を着せようとする展開になる。後者は、危うく交通事故は回避するが、後にその相手から付きまとわれ、次第に窮地に追いやられていく展開だ。

 

ちょっとした違いから展開がかわるパラレルワールドものとして、なかなか面白い試みだと思い読んでいくと、ところどころに違和感を覚える。目撃者を殺した、殺さなかったの運命のいたずらで変化したということでは説明できない違和感である。最後の最後、二つのストーリーがともにエンディングを迎えた段階でも、キツネにつままれたような感覚で終わってしまうかもしれない。衝撃の事実の全ては、エピローグで明らかになる。

 

なにはともあれ、これだけの大仕掛けのトリックを最後まで隠しおおせた作者のテクニックは見事というほかない。まあ、私が鈍いだけかもしれないが。ただ、ちょっとした前振り一つで、読者はやすやすと作者にコントロールされてしまうものだと痛感した。作者に翻弄される感触を久々に味わえた1冊だった。最近ミステリーでびっくりしてないな、と思っている方にはおすすめだ。

【読書感想】思春期テレパス/天沢夏月

学、大地、翼の男女仲良し3人組が、高校生の間で流行している「友達の本音を教えてくれる【本音メール】」の噂を試してみたことをきっかけにはじまるひと夏の青春ストーリー。知らなかった、知りたくなかった、知られたくなかった本音が伝わってしまったことで、3人の関係性が少しづつ変化していく。 

たまには純度100%な青春ものを読みたいな、でも当然不思議要素は必要だよな、などと思っていたら見つけた作品。

 

読んでみて、期待通りの内容だったけど、正直序盤はなかなか読み進められなかった。高校生たちの普通の日常話が100ページくらい続くのでちょっと退屈で…。100ページ読み進める間(実時間で1時間にも満たないと思う)に別の本を2冊ほど挟んでしまった。一応本音メールの設定は初めからでてくるんだけど、これっていわゆる「友人同士の会話を立ち聞きしてしまった」とかそういう、恋愛もののあるあるシチュエーションとやってることは同じ。それをメールの形でやってるだけで、本音を知ってしまって関係性が壊れていく、みたいな展開はありきたりといえばありきたりだし。

 

一応、完全な不思議要素として、「本音メールに返信すると本音をなかったことにできる」という設定がでてくる。3人の関係を壊してしまった一人の恋愛感情を消してしまうか、それとも…という葛藤シーンにはドキドキした。ここが個人的にはクライマックスだったかな。終盤は、第4の人物、夜子という女の子が話の中心になっていく。かつて本音メールによって友人を失った彼女の心を救うために、バラバラになった3人の心がもう一回一つになれるのか。

 

まあ、なんていうか…この作品の感想を一言で言うならば…若いっていいよね!これに尽きる。大きな事件はあるものの、基本的には小さな人間関係の中で完結する物語で、その中で高校生たちがちょっと成長して未来への一歩を踏み出す、みたいな。登場人物みんないいやつだし、恋愛模様も年相応でさわやかだし、ラストも明るくてとても良かった。最初はちょっと退屈な感じの始まり方だったが、中盤以降は一気に読めたし面白かった。嫌味なところのない、素直で気持ちの良い小説だと思う。

 

ああ、高校生に戻りたいなあ。…と思ったけど、自分は男子高だったからだめだな。中学生まで戻らないと。