怒られる男の日記

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【読書感想】夏雷/大倉崇裕

独身の時に別のブログを書いていたときは、読書感想がメインで年間150冊分書いていたので、このブログでもぜひ書きたくなった。しかし、以前のようにじゃぶじゃぶ趣味にお金を使うこともできない…ということで、某有名新古書店チェーンで、100円コーナーで購入した本しばりという条件を設定。今回は大倉崇裕さんのミステリー、「夏雷」を選んだ。

 

夏雷 (祥伝社文庫)

夏雷 (祥伝社文庫)

 

 

大倉さんは、失礼ながらそんなに有名作家というわけではないと思うのだが(すいません)、白戸修の事件簿シリーズ、福家警部補シリーズ、警視庁いきもの係シリーズと映像化作品も多く、影の実力者タイプの作家さんだ。書くジャンルは多彩で、軽いものから重厚な作品まで幅広く、そしてなによりクオリティが高い。いままで、この方の作品で損をしたと感じたことはないし、いつも工夫を凝らした平均点の高い小説を書く職人という印象だ。野球に例えれば、打率289、12本、60打点くらいは期待出来て守備がうまくケガしない選手みたいな。

 

で、この「夏雷」は、表紙からもわかる通り山登りが一つのテーマになっている。山岳系のフィクション作品は名作が多いので、極限状態の人間ドラマに期待が高まった。

 

探偵業を廃業した、下町の便利屋・倉持のもとを、一人の中年男性が訪れる。その男・山田は、自分を槍ヶ岳に登れるようにして欲しいという。学生時代に山で苦い思い出がある倉持にとっては気が乗らない依頼だったが、報酬につられて請負うことに。トレーニングに付き合い、何度か山に同行するうち倉持は、一見なんの特徴もない山田の強靭な決意に興味をひかれるとともに、彼に不思議な友情を感じていく…。

 

前半は、依頼人・山田の「山に縁のなさそうな男が、何故に槍ヶ岳に向かうのか?」という謎でひっぱりつつ、倉持との関係性の変化をじっくりと描いていく。単純に面白いし、二人の冴えない中年男が、ほとんど言葉もかわさず、互いの背景も知らないままに友情関係を深めていく展開に、不思議に共感を覚えた。言葉はいらない関係って、いいよなーみたいな。

 

そして中盤、いよいよ問題の槍ヶ岳にアタックするという段階で急展開がまっているのだが…。

 

正直に言うと、今まで読んだ大倉作品の中では、本作の後半の展開は、一番失敗に近いと感じてしまった。一番残念だったのが、コアとなる謎「何故山田は槍ヶ岳を目指すのか?」について、期待したほどのインパクトはなかった。もちろん納得感は十分にあったのだが、予想を超える「こう来たか!」とまではいかない。人がある場所に行きたい理由としては一番ありふれたものだったからだ。

 

もう一つ感じたのが、いろいろと盛り込みすぎだったのではないかな、ということ。倉持と父親の関係性、探偵時代の事件など、作中で何度も触れられた話題が、結局ほとんど本筋に絡まないまま終わってしまった。チンピラや情報屋、探偵時代の同僚、元の職場の社員など、似たようなポジションの登場人物が次々に登場し、AがBに命令したことをCが知ってDに調査を依頼して、でもDは本当はEと通じていて…みたいに無駄に複雑になりすぎに感じた。そのせいでせっかくの、最後の最後のどんでん返しの驚きが薄れてしまったように思う。

 

と、いろいろ書いたが、一方で大倉作品の、「大外しはない」安心感を再確認したのも確かだ。過去と現在にからめとられくすぶっている中年男の、再生に向かう人間ドラマとしてみれば、とてもすがすがしく気持ちの良い作品だった。前半の登山描写には山の魅力もたくさん詰まっていた。ハイキング程度で十分だから、いつか家族で山にいってみたいものだ。