怒られる男の日記

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【読書感想】ハルさん/藤野恵美

藤野恵美さんの小説を読むのは初めて。普段は児童文学の世界で活躍されている作家さんのようだ。この「ハルさん」は初めて挑戦した大人向けの作品であり、賞を取ったり2時間ドラマ化もされているとのこと。

 

ハルさん (創元推理文庫)

ハルさん (創元推理文庫)

 

最愛の妻・瑠璃子さんに先立たれ、幼稚園にあがったばかりの愛娘・ふうちゃんと二人生きていくことになった人形作家のハルさん。不安でいっぱいの毎日だったが、ふうちゃんのピンチに困り果てたハルさんを助けてくれるのは、いつだって天国から見守っている瑠璃子さんだった…。

 

ふうちゃんがお嫁に行く現在のシーンから始まり、幼稚園児、小学生、中学生、高校生、大学生時代に起きた5つの事件を振り返るという構成。いわゆる「日常の謎」系のミステリーで、やさしくてちょっと頼りないパパのハルさんが、亡くなった妻の助けを借りて事件を解決していく。

 

一番面白かったのは、小学生時代の「夏休みの失踪」。園芸に興味を持って近所のおじいさんと仲良くなったふうちゃんが、ある日姿が見えなくなってしまう。ハルさんは心配して、おじいさんのところに向かうが、おじいさんはふうちゃんを泥棒呼ばわりして激怒している。ふうちゃんは何を盗んだのか、そしてどこに消えてしまったのか? ふうちゃんの行動が予想外すぎてびっくり。それまでに至る会話がいい感じに伏線になっていて、驚きつつも納得。

 

それから高校時代の「涙の理由」もよかった。いじめのニュースをみたハルさん。ふうちゃんが持っている服に落書きされていたり、けがをして帰ってきたのを見て心配になってしまう。おまけに親友のちかちゃんとの仲もうまくいっていないようで…。娘が思春期を迎えて困惑しつつも心配する父親の心情が効果的なミスリードになって、意外性のある展開が楽しめた。

 

他の3編含めたミステリー短編集としての出来は、特別良くもなく悪くもなくまあまあという感じだと思うけど、本作の魅力は1にも2にもハルさんとふうちゃん父娘のドラマにあるのは明らか。同じく娘を持つ父親である自分にとっては、その時点で100000点くらいのゲタを履いているも同然であった。

 

女性作家さんならではの感覚なのかな、と思ったのが、ハルさんとふうちゃんの距離感の描き方だ。幼稚園時代はパパ大好きだったのが、小学生では独立心が出てきて、中学生で一回距離ができて、高校で距離感が安定するけど前みたいなべったりには戻らず、大学では物理的に離れていく…これがなんともリアルなのだ。自分が仮にこういう感じのストーリーを書いたら、願望込みでいつまでも仲良しな父娘にしてしまいそうに思う。

 

実際、自分がこの作品を読んでいてガツンと来たのが、1話から2話にうつるところで、天真爛漫でパパ大好きだったふうちゃんが、しっかりものの小学生に変わってパパ関係なく自分の世界を構築しているのだ。うちの子も実際こうなんだろうなあ、いつの間にかパパママじゃなくなるんだろうなあ、と思ったら、ショックに近いくらいのインパクトを受けた。

 

そしてラストの結婚式である。幼い娘がいるパパで、こんなシーンを想像したことのない人はいないだろう。いつかその時が来たら、絶対にとんでもない勢いで号泣する自信がある。案の状、この作品を読んだだけでも涙腺に多大な負荷がかかり、通勤電車内でマッハでまばたきをするはめになってしまった。

 

ところで、この作品で一番驚いたのは、どの謎解きでもなく、ハルさんの亡き妻・瑠璃子さんの扱いである。亡くなった奥さんが助けてくれる、という設定を読んで、「生前の会話がヒントになる」とか「日記にヒントが書かれていた」とかそんな感じを予想していたら、全然違った。

 

ハルさんが「ふうちゃんが大変だ…どうしよう…」と苦悩していると、璃子さんがハルさんに普通に話しかけてきた。しかも、毎回5ページ分くらい脳内で会話して、(こう考えればいいじゃない?)とか、かなり詳細なアドバイスをくれていた。まさに、「こいつ、直接脳内に…!」である。死者と交流するフィクション作品は数あれど、かなりアグレッシブな部類の死者だと思う。

 

それはともかく、ミステリー好きで娘を持つパパにとっては、ミステリーとしてもそこそこ楽しめつつ、父娘ドラマでど真ん中ストライクに入り、将来的に親離れしていくことへの覚悟もできるという一粒で二度三度おいしい作品だった。