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【読書感想】魔法使いと刑事たちの夏/東川篤哉

「謎解きはディナーの後で」の原作者として知られる東川篤哉さんのミステリー、「魔法使いと刑事たちの夏」を読んだ。

 

魔法使いと刑事たちの夏 (文春文庫)

魔法使いと刑事たちの夏 (文春文庫)

 

読んでみて初めて気づいたけど、どうやらこれはシリーズ第2作らしかった。前作を知らなくても全く問題なく読めたが、一応最初から読んだほうが良いと思われる。

 

 今度見つけたら読んでみよう。

 

さて、東川篤哉さんと言えば冒頭にも書いた通り「謎解きはディナーの後で」なわけで、ドラマはキャストやマンガ風のポップな演出もあいまってオシャレ感のある仕上がりになっていたが、実際の東川作品はダジャレあり、お下品ネタあり、おやじギャグありの昭和テイストあふれる作風である。本作も、捜査中に出会いを求める美女上司の椿木警部(39歳)、そんな女王様、もとい上司にあこがれるМ気質の若手刑事・小山田聡介、そして魔法で犯人に犯行を自白させてしまうメイド兼魔法使いのマリィというエッジのきいたトリオが繰り広げる、ドタバタコメディテイストのミステリになっている。

 

 ミステリ慣れしてない人からすると、「魔法で自白させる?そんなのなんでもありじゃねえか!」と思うかもしれないが、ありとあらゆる奇妙奇天烈な名探偵が生まれてきたミステリの世界では、それだけではさほど驚くほどのものでもない。この作品のポイントは、「魔法で自白させちゃう能力」と、倒叙ミステリを組み合わせたことにある。

 

倒叙ミステリとは、刑事コロンボ古畑任三郎に代表される、冒頭で犯行の様子を描写し、そのあとで探偵役が登場して、受け手からはすでに分かっている犯人を、探偵が追い詰めていく駆け引きを楽しむタイプのミステリだ。初めから犯人がわかっているので、魔法だろうがなんだろうが、どんな手段で犯人が明らかになっても読者からは痛くもなんともないのである。

 

さらに言うと、この方法は、倒叙ミステリで議論になりがちな、「探偵はいつ犯人の目星をつけたのか問題」についても解決を与えてくれている。ピーターフォークなり田村正和は、どの段階から容疑者を犯人と確信した体で演技をしているのか、脚本を書いたほうも演じるほうも、見ているほうも、結局はよくわかっていない。しかし、いくらなんでも一目見た瞬間に犯人がわかるはずもない(それこそ魔法だ)ので、どこかで疑い、そして確信を持つに至ったはずであるが、倒叙ミステリではここがいい加減になりがちだ。

 

まあ、そこは特にはっきりしなくても作品は成立するのだけど、細かいところが気になるのがミステリ好きという人種。この作品は、「読者が犯人を知る瞬間」と「探偵が犯人を知る瞬間」が明確に描写されており、その点でも倒叙ミステリの弱点を克服した一大発明だと思うのだ。

 

「魔法使いとすり替えられた写真」は、芸能事務所の所長が、スキャンダル写真を撮ったパパラッチを殺す話。たまたまトリックに使った一枚の写真が思いもよらぬ結末につながっていく。「魔法使いと死者からの伝言」は、タイトル通りダイイングメッセージを題材にしたもの。しかし、いまいち説得力が…、そんなにうまくいくかなあ。「魔法使いと妻に捧げる犯罪」収録作のなかでは一番好き。自分のアリバイを証明するために、あえて他人のアリバイの証言者となるというアイデアが面白かった。「魔法使いと傘の問題」これも面白い。いささか偶然便りの気もするけど、犯人を問い詰めるシーンが秀逸。コロンボの名エピソード「ロンドンの傘」を思わせた。

 

倒叙ものは、通常のミステリと比べて「驚き」という武器を封印しているので爆発的な傑作にはなりにくい。とはいえ、探偵と犯人の対決という醍醐味を味わえる点では安定して楽しめる。さらに本作の場合、主要登場人物三人によるラブコメ要素もあり、ミステリの魅力を味わいつつも気軽に楽しめるという点では最適な作品と言えるだろう。倒叙ものが好きな人、軽めのミステリが好きな人におすすめ。