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【読書感想】僕が愛したすべての君へ/乙野四方字

平行世界を題材にしたSF「僕が愛したすべての君へ」を読んだ。あとに紹介する「君を愛した一人の僕へ」と対になっていて、独立した作品でありながらも、事実上1冊で1本の長編ともいえる内容になっている。 

もう1作の感想はこちら。

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正直、表紙の印象から、SF的な設定を借りた恋愛メインの青春小説という先入観を持っていたのだが、いい意味で予想を裏切られた。平行世界の存在が証明された世界という前提のもと、社会がどう変革するのか、どういった問題がおきるのか、その中で生きる人間の意識はどのように変容していくのか、という、SFの根源的なテーマに取り組んだ、かなりガッツリしたSFだった。

 

まずは本作で描かれる平行世界について。この世界には、少しづつ異なる複数の平行世界が存在していて、しかも人間(だけでなく他の生物や無生物も)は日常的に他の世界と入れ替わっているという。しかし、それは一時的なもので、しかも自然に入れ替わり(パラレル・シフトという)が発生するレベルの近傍の世界とは差がほとんどないので、気が付かないことがほとんどである。例えば、置いたはずのペンが見当たらない。一度探したはずのところから探し物が出てくる。などといった現象は、このパラレル・シフトが原因とされる。…という世界観だ。

 

主人公の高崎暦は、7歳の時に両親が離婚し、母親についていくことになる(そして、ここがもう1作との運命の分岐点となる)。高校生の時にクラスメイトの瀧川和音と知り合い、以後大学、それ以降と順調に関係を深めていく。そんなある日、暦の人生を一変させる大事件に巻き込まれる…。

 

初めてパラレル・シフトを意識した幼年期、そして和音と出会った少年期、それ以降…という感じに話が進んでいく中で、暦は何度も平行世界の存在と向き合い、自分たちの考え方を確かめていくことになる。例えば、恋人とベッドに入っているときにシフトが起きたら、平行世界の恋人とそのまま続けていいのか、とか。結婚式の最中にシフトが起きたらどうする、とか。それと同時に、社会にもまた、平行世界で起こした犯罪で裁かれることは許されるのか、など、様々な形の制度や法の改正を余儀なくされることが描かれていく。

 

恋人との関係性という個人的なものを軸にしながらも、社会への影響に考察を広げていくという正統派のSF作品だと感じた。しかも、複雑になりすぎない程度に深く考えてあるし、なにより平行世界の設定が面白い。最後の最後にはかなりシリアスな事件が発生し、暦は大きな決断を迫られるのだが、それまでの数音との対話で示された暦の考え方とそれに基づく思いは納得のいくものであったし、希望と幸福を感じさせる結末も良かった。

 

期待値が低かったのもあるが、予想よりもかなり面白かった。SF好きにはぜひ読んでほしい作品だ。また、本作の序章と終章は「君を愛した一人の僕へ」とリンクしている。両方読んで初めてわかることもあるので、2冊一気に読むことを勧める。