怒られる男の日記

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【読書感想】微笑む人/貫井徳郎

これは、貫井さん、やっちまったなあ~! 読後に残るなんともいえない不完全燃焼感というか残尿感と言うか。一言で言えば、もちもちふわふわしっとりかつ香ばしい極上のたいやきの皮(ただしアンコなし)のような小説だ。

 

微笑む人 (実業之日本社文庫)

微笑む人 (実業之日本社文庫)

 

  

仁藤という男が、妻子を殺害した罪で逮捕される。誰もが、穏やかで理知的で優しく、殺人どころか暴力を振るうことすらイメージできない人格者と評判の容疑者が語った殺人動機は、「家に本を収納するスペースが足りなくなったから」というものだった。

この異常すぎる動機から容疑者に関心を持った小説家が、彼の人格形成について調べるために周囲の人物にインタビューを重ねていく。社会人、大学…と時間をさかのぼるうちに、仁藤の周囲では不審死が相次いでいたことが判明する。果たして、仁藤は狂った連続殺人者なのか。それとも、隠された動機があったのか、はたまた冤罪か。微笑みの奥に隠された真実とは。

 

貫井作品には、「○○(有名作家)の××(有名作品)」を連想させられることが多いのだが、本作で想起したのは東野圭吾さんの「悪意」である。殺人という事実を前に、動機を第三者の視点や手記を通じて探っていくという構成に共通点がある。

 

誰に聞いても善人としての顔ばかりが出てくる仁藤という男に対して、老若男女様々な視点から立体的に、しかもインタビューに対するコメントという話し言葉で描いていく。小説など書いたことがない身ででも、これがすごく難しいことであることはわかるし、しかもそれが全くよどみなく、自然に腑に落ちるような文章で表現されていることは純粋にすごい。さらにいうと、そのところどころに、「やっぱりこいつ、闇がありそうだな…」と思わせるような小さなトゲを仕込んであるので、先が気になってどんどん読み進めてしまった。

 

そう、読みすすめた先が虚無であるとは知らずに…。

 

もちろん、やりたかったことはわかる。解説にも書いてあるけど、わかりやすいストーリーを求める世間への警鐘とか、ミステリという形式への挑戦とかそういうやつでしょ。でも、そういうの求めてないんだよなあ。「人の心に納得できるようなストーリーを求めてはいけない」そんなセリフは、何か事件が起きるたびに「ネット社会のひずみが~」「若者の心の闇が~」ってやってるワイドショーにでも言ってくれよ。

 

こちとら、世の中の事件にそんなものないのはわかった上で、エンタメとしてのミステリーで納得感あるロジックやら驚愕のどんでん返しやらで驚いたり感心したりしたいから読んでいるわけなんで。例えて言うなら、毎日味もそっけもない食パンかじって、たまにはおいしいパンが食べたいと思って評判のパン屋さんでお勧めの焼きたてクリームパン買って、さあ食べようとしたら中にクリーム入ってなかったわけですよ。困惑してたら店主がメガネクイってしながら、「クリームパンにクリームが入っていると誰が決めた…?」みたいなこと言ってドヤっていたっていう状況。まあ、パン部分はとても美味しかったんですけどね。食べたかったのはクリームパンだから!

 

これくらいのことするなら、渾身のトリックをダミーの結末に使うぐらいのことはして欲しかった。それくらいの覚悟を見せてもらわないと、この作品をミステリでございって目の前に出されても納得できない。正直、貫井さんの実績や実力を考えたら、トリック無しでミステリ1冊かけちゃってラッキーでしたねって印象だけが残った。