怒られる男の日記

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【読書感想】満願/米澤穂信

先日、3夜連続でドラマ化されていた米澤作品の原作短編集。掛け値なしに傑作ぞろいのすごい1冊だった。 

満願 (新潮文庫)

満願 (新潮文庫)

 

安田顕さん主演でドラマ化された「夜警」。妻を凶器で襲った男を射殺し、自分も反撃にあって殉職した新人警察官・川藤。若き勇気ある警察官の死と報じられる中、川藤の上司だった柳岡には、違う風景が見えていた。

柳岡の目線から描かれていく川藤という男の小心さ、卑小さがとてもリアルで、ある意味自分も同じような面があるので正直耳が痛いというか目が痛かった。それはともかく、川藤の死につながる一連の出来事がつながっていくラストは鮮やかで、驚きと納得を兼ね備えたミステリとして理想的な謎解きだった。この作品が一番好き。

 

「死人宿」は、別れた恋人を訪ねてとある民宿を訪れた主人公は、そこが自殺の名所であることを知らされる。久しぶりにあった元恋人の様子がおかしかったので問いただすと、誰が書いたかもわからない一通の遺書が見つかったのだという。はたして、自殺しようとしているのは誰か、客の一人なのか、それとも? 無常感のある終わり方が印象的。

 

「柘榴」は一番の問題作か。ろくに働きもしない夫と、必死に働いて二人の娘を育ててきた母。離婚にいたったが、親権は夫のものとなってしまう。なぜ?という話。子供のいる女性にとっては悪夢のような話だろうが、結末も十分に悪夢じみたものだった。

 

「万灯」もドラマ化原作で、主演は西島秀俊さん。バングラデシュ(ドラマではベトナムだったかな?)の天然ガス資源開発のために現地に送り込まれた商社マンの伊丹は、開発を進める中でとある村の強い抵抗にあう。村の指導者が、協力するための条件として要求してきたのは、とある人物を殺害することだった…。

サラリーマンはつらいよ、にもほどがあるのだが、名誉欲、長年外国で戦い続けてきたという誇り、後には引けないという焦り、競争心などなどが絡み合った結果、とんでもない行動に出てしまう主人公には、たんなる社畜根性では片づけられない切実さがあった。彼が「裁かれる」に至る流れ、アイデアも秀逸。こんな形で犯罪を暴かれる犯人は、ミステリの歴史上でも初なのではないか。

 

きりがないのでこの辺にしておくが、いずれもミステリとしての出来に加えて、極限状況での人物描写が見事で、傑作という名に値する強烈な作品ばかりだった。ドラマをみて興味を持った方も、映像化されていない短編も面白いので、ぜひ読んでみて欲しい。